商売を始めて10年ぐらい経ち、発展する日本経済の中で私の画廊もなんとかやって行けるようになった頃、残されたまだ訪ねていない国々のことが少し気になり、試しにドイツの方に行き、小さな旅をして見た。結果は自分でも驚くほど旅行に興味が無くなっており、汽車の窓から景色など見ずに持って行った日本の小説を読んでいるような有様だった。やることはと云えばオークションのカタログを見ながら何を買ったら良いか、とか、町に出て画廊や骨董屋を訪ね何時も何かを買うことばかり考えていた。美術館に行っても昔ほど半日も居るなどと云う事も無くなり、必要な展覧会だけを1時間だけで観て、また画廊周りをすると言うような日々だった。
45歳を過ぎて初めて自由にお金が使えるようになって私はその自由を満喫していた。右肩上がりの景気の中で、それもビジネスの中でだから無論慎重にお金は使ったのだが、なんせインフレの時代故、年間7パーセントぐらいの利息は意にも介さなかった。それにそれらは商品なので例え100万で買ったものが思うように行かず、1年後に110万で売ったとしても何とか利息は払えるし、また新しいものを買ってチャレンジ出来るのだった。
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