− ギャラリーかわまつ誕生秘話 −


41.家族
 
  私は‘人の事はどうせ解らないから‘と、いつも自分の考えだけで行動したり話したりしていたが、これが結構人に迷惑をかけていたみたいだった。ーずっと後になって解ったことだが。「弟は障害者の為に働いているから優しい。だから私よりも今の宗教界とか住職に向いている」と、父の意見も聞かずに半ば押し付けてしまった。動機も全くの勝手で、ーもちろんその時はそうは思わず弟の為だと思っていたがー 私が何時ものように自分の好奇心を何よりも大切にしたからだった。その頃弟はすでに結婚してボランチア風な仕事をしており、尋ねた事はないが給料は安かったと思い、その仕事をやりながら寺の仕事に就けば、もっと思いきりやれる筈だと。私は、経済的に安定している場所を彼に譲り、力の有る筈の私が外に出て行けば、皆が上手く行くと独りで思っていた。何で私は人の意見とか気持ちを聞くのがこんなに下手というか能力が無いのだろう。聴いている筈なのに何も私の中に入って来ないのだ。これで寺も父も弟も皆上手く行くと思ったのは、私だけのようだった。
 
 

私は両親と結構仲が良いと思っていたし、2人を100パーセント信頼していた。それが私の弱点であり強さでもあった。私にはどんなに大変な時でも帰る家が有ったので冒険が出来たのだと思う。

また、私が好きなように生きる事を両親は願っている筈だと信じていたので、自分の好奇心の為だけに生きるのが同時に親孝行だとも思っていた。そんな考え方を二人は知っており、私は沢山の手紙を2人に送っていたので、父も母も私には何も言わなかった。

 

時々父は私の3階にある画廊を訪ねて来て、「どうだ、商売は上手く行っているか」と訊いた、私が「今年は売上が1億に行きそうだ」と言って安心させてあげると黙って帰っていった。親父が死んだ後、弟が私に言った。−お父さんはずっとよっちゃんが寺に戻るのを待っていた。俺が手伝っているにも拘わらず、と

親は子供を公平に愛する筈なのに,私の好きなビデオはゴッドファーザーの一巻で、マイケルの事を気使っている父の場面を見ると何とも云えず涙が出てくる。ーマイケルと違って父のために何もしなかった私にも拘わらず。私は愛された方だから良いが、2番目に成ってしまった弟の気持ちは私にはずっと解らなかった。そしてその弟もわずか49歳で死んでしまった。解らないまま、解ってもしょうがないと言う気持ちが一緒になったまま、若くして死んでしまった弟をだんだん不憫に思い始めている。