また或る時は、ニュウヨークの画商から委託を受けて売ろうとしていた国吉康雄の10号ぐらいの油彩が、私の知らない或る画商から何か変だからと言って戻されて来た。その画商は、これを確か400万で買わないかと言われて預かったがどうも怪しく思い、人に訊いて私の物らしいという事が解り、私の所に来たのだった。確かにそれは私がある人に600万くらいで預けた物で、コストは500万もしたものである。まだ委託だから払ってはいないが、この件もまた私には訳が解らなかった。預けた人に電話で聞こうとしたが最後まで連絡が取れず、暫くしてその人は自殺してしまったと聞いた。すごく真面目な人だったのになぜ?と云う謎が残ったままだった。私は本当にラッキーだったのに、そのことさえも良く解らないままだった。今はその油彩をわざわざ私の所に届けてくれた人の名前さえ思い出せない。なぜこんな脇の甘い私が画商として生き残って来たのか解らない。あの車の事故の時のように運命の女神に優しくされたとしか思えない。 |