− ギャラリーかわまつ誕生秘話 −


30.ガンジス

  4月4日、朝5時半にカン、カンと木鐘が鳴りうつらうつらしている所を起こされた。部屋はまだ暑く、どうせ眠れそうもないので起きて坊さんに付き合うことにした。外はひんやりとしていて気持ち良く、尼さんと他の若者2人の4人で大塔へ行く。大塔の仏陀像の前に座りお経を詠む。蚊が群がってとても静かに座っていられず、かといってあまり蚊ばかりにかかわり合っていたのではとても良い坊さんに成れそうもないので、音も無くブラウン運動のようなことをしている蚊のやつらを眺めていた。沢山いる割には刺す蚊は少なく、2、3箇所刺されただけで済んだ。尼さんなんか衣で身体をすっぽり包んでしまい、肌といえば顔と頭だけなのだからいい。後から来た鎌倉学園の後輩である坊主と一緒に心経や観音経を詠む。私は観音経までは経本無しでは詠めないので、専らじっと座って蚊が来ないように蚊を睨み、外に出たら蚊はいないだろうとひたすらお経の終るのを待っていた。

 

 
ガンジス(左右とも)

 

 お経が終って寺に帰ると尼さんは2階に案内してくれ、じっとがまんして蚊と付き合っていた私にこの辺の事をいろいろ話してリラックスさせてくれた。朝食後さすがに眠くなり、2階にあるベランダの日陰になっていたコンクリートの上で眠った。冷え冷えとしたコンクリートは気持ち良く、そんな風にして寝ているインド人の気持ちがよく解った。

   4月5日、朝7時の汽車でベナレスに行く。駅からのリキシャに政府のツーリストバンガローに行ってと言ったのに近くのもっと良いホテルに連れて行かれた。でもホテルが安くて良かったのでそこを取ることにした。ここはカルカッタからデリーまでのコース上に有り、またヒンズー教徒の死に場所として有名な所であり、さらに隣町がサリナスで仏陀が始めて説教した所なので日本からも旅行者が結構来るとその宿の主人が話していた。

 

   
ガンジス(全て)

  昼頃着いたのでそのまますぐにガンガ―ガンジス河の意味、に行く。ガット(沐浴場)は昼の一番暑い時なので人はあまり居なかったが、病人や半死人が至る所にいた。ライ病で指の無い人、もう半分死んでいて骨と皮ばかりになって毛布を被ったままじっと動かない者が。水際では男の子達が川底に潜っては砂をすくっては金目の物を探している。その脇では女の人がその汚い水で口を注ぎ、さらに5回もその水を手に一杯に飲むのを見て度肝を抜かれてしまった。

  火葬場へ細い道をくねくねと人に訊きながら行く。そこにも死ぬために来た人達がじっといつか来る自分の番を待っている。5、6箇所で火が燃えている。キャンプファイアーを大きくしたみたいなもので、中間に死体を置いて焼く。足がはみ出しており、その足がポキンと折れて落ちた。次に焼かれる死体が3体、布に巻かれて待っている。近くで犬が肉の焦げている匂いに興奮してか時々吠えている。体毛が抜け落ちた嫌な感じの犬が多かった。そのすぐ近くで水牛が水を浴び、子供達が一緒に遊んでいる。

  4月6日、朝5時に起きてガンガへ向かう。沢山の人達がみな同じ方向に向かってひたすら歩いている。ボートに乗って水上から観る、やってる、やってる。何千という老若男女が水に潜り、口を漱いで太陽を拝み、ついでに泳いだり服を洗ったりしている。傘の下にいる僧侶たちは毎日の事なので、どうでもいいような風でぼんやり河を見つめ人を見ている。ついでに昨日行った火葬場の前をボートで通る。3体ほど焼かれるのを待っていた。 火はまだ無かった。死体は布を巻かれて何時間か河の水に浸された後、河岸で水を切り順番に焼かれるのだった。