− ギャラリーかわまつ誕生秘話 −


27.象

 

3月11日、野生の象がいるペリヤーレイクに向かう。椰子やバナナの木が至るところに見られる道をバスで走る。ホテルでの食事はベジタリアンフードしか無かったが、別に困らなかった。空気がからっとしていて実に美味く、見慣れぬ木々が沢山あって私達の目を楽しませた。バスの中で知り合ったフォレスト・オフィサーを訪ね彼らのバンガローを借りることにした。町で食料品を買い、荷物はホテルに預けてその湖近くのバンガローにボートで移動する。そこで湖に来る野生の象を観るのだ。夕方、山の方に動く象を見る。見張りのおじさんに教えられてわかったのであって、ただ何となく見ていたのでは解らないぐらい小さくぽつんと見えるだけだった。また少し離れた丘にはバッファローが群れを成していたが、これも点にしか見えなかった。水牛が三匹ほど目の前にいて湖の中にある島に泳いで渡りところだった。水牛が泳ぐとは知らなかったので私達はびっくりした。夜中象が湖に下りてきて遊んでいる音を聞く。その鳴き声は高音な叫びだった。

 
 ラメシャラムにて(左右とも)

3月14日、朝六時半に起こされた。象が湖のそばまで来ているというので、小屋の人達と近くの見張り小屋の方に移動する。5分ほど歩いて小屋の前の丘に出て、そこから象の背中がすぐ近くに見えたので慌てて茂みの中に身を隠した。象は二頭いた。しばらくじっと身を隠しながら見ていると、象は丘の中腹から下りて草原に出た。何時の間にか象は六頭になっていた。大きな象が三頭、少年のようなのが一頭、そしてまだ赤ん坊のような象が二頭、大きな象たちに囲まれて歩いていた。大きな耳をぱたぱたさせ辺りの様子をうかがいながら何かを食べていた。30分近く私達は茂みの中から象たちの様子を窺がっていた。象は何となく私達の気配を感じたのか、反対側の丘に姿を消した。念願であった野生の象の観察が出来たので、その日の内にマドライへバスを乗り継ぎながら向かった。

 

マドラスの人々

 

今度はセイロンに渡るフェリーが出るラメシャラムという町へ向かう。セイロンに向かうフェリーは週二回しかないので、その町に二泊することにしたが、いざフェリーの切符を買う段になって、マドライで調べたときにはビザは必要なしと言われたのに、今になってやはり必要だと言う。しゃあない、すっぱりあきらめて次の日マドラスに向かうことにする。ついに北上の途に着く。これからは毎日旅する毎に日本に近づくことになる。   

インドでは荷物はクーリーに持たせるのが普通で、外国からの旅行者の少ないこの辺では、大きな荷物をもって歩いている私達を不思議な常識のない人という目で見るので、我々もその目に対抗するのに疲れてしまった。その土地の習慣に逆らうのは結構エネルギーのいるものだ。インドではヨーロッパの国々と違い、美術館巡りよりもお寺巡りが多かった。美術館はほとんど無く、美術品があるのはほぼヒンズーの寺が主で、時には遺跡に近い仏教の寺だった。このインド半島最南に近いこの町のヒンズーテンプルは予想以上に大きく立派だった。寺の中にバザールもあり、まさに宗教と生活が渾然一体となっていた。